マニラで与かったミサ
          
 マニラ市のエッサ通りとオルテガス通りの交差点近くに、金色の巨大なマリア像がある。この付近一帯は一九八六年の無血革命の中心だったところで、それを記念してここに教会が建てられた。大道りに面していて一見教会とは見えない建物に入ると、中は祭壇を半円形に取り囲んだ五〇〇人は収容できそうな聖堂である。フィリピンでは革命というと、アキノ大統領の誕生へと導いたあのマルコス政権の崩壊の日を意味しているが、聖堂内には淡い色で当時の有り様を伝える壁画が描かれていた。
 午前十時。丁度、前のミサが終わって多くの人が出てくるところだったが、まだ三十分近くあるというのに、もう次のミサに与かる人たちが入り始めている。聖堂はすぐに満席になり、後ろには大勢の人が立っていた。フィリピンでは国民の八五%がカトリックであり、ミサは人々の生活の一部になっているようだ。
 ミサでは、ギター、マンドリン、コントラバス、タンブリンの伴奏に乗って歌う聖歌隊の美しい歌声もさることながら、唱和する会衆の歌声も素晴らしく、音楽性の高い国民性と熱気を感じとることができた。司祭は説教の中で、丁度この日、メキシコから搬送されて、これからフィリピン国内の教会を巡回するという、グアダルーペの聖母像を紹介しながら、「聖母は危険を冒してメキシコからはるばるこの地までやって来られました。私たちは安全な毛布にくるまってのんびりしていないで、聖母のように、失敗を恐れずに、危険を冒しても進んで外に向かい、神の愛を実践して行かなくてはなりません。」と述べられた。ミサが終わり、先導者に続いて司祭が退場しようとすると、大勢の子供達が司祭に走り寄っていき、祝福を受けている姿が大変ほほえましかった。
 フィリピンは今、三百年にわたるスペインの統治、五十年にわたるアメリカの統治、そして長期間続いたマルコス政権の後、徐々に経済復興にも明るい兆しが見えつつあるようである。