オーストラリアを訪ねて
                     
 二月初旬、冷え込みの続く日本を発ってオーストラリアはメルボルン空港に到着すると、外はジャケットを着ていては汗が出るほどの暖かさである。初めての南半球の旅でいろいろ興味深い経験をした一週間だった。夏冬が反対なのはあらかじめ承知していたが、南に行くほど寒くなるのはなかなか実感が湧かない。太陽の高度がどうも日本よりずいぶん高いような気がする。誰かにそう言われて、はじめ気のせいかと思ったが、考えてみると北半球では太陽は真東よりも南側から昇って真西よりも南側に沈むが、南半球では太陽は真東より北側から昇って真西よりも北側に沈む訳けである。信じられない話だが、この大陸がヨーロッパ人によって発見されたのは一八世紀になってからということである。オーストラリア大陸は大昔から他の大陸と切り離されていたため、植物相も動物相も独特のものがあって珍しい植物が多い。見かける小鳥達もどことなく異色である。動物園で見たコアラは、木につかまったままほとんど動かない、動きの少ない動物であるのを初めて知った(ナマケモノのようだ)。カンガルーは近くで見たのは初めてで、これを初めて見たヨーロッパ人はずいぶん驚いたことだろうと思った。小さなカンガルーがお母さんカンガルーのおなかの袋に首を突っ込んでミルクを飲んでいる様はかわいらしかった。
 会議の合間を縫ってメルボルンの町を歩いてみた。とても清潔で、ゴミがほとんど落ちていない。後からあるオーストラリア人に聞いたら、なんでもオリンピックを招致する運動が起こってから町をきれいにしようと言う運動が起こり最近きれいになってきたのだという。人々の歩き方は心なしかのんびりしていて、こちらの気持ちもゆったりとしてくる。ダウンタウンの南側を流れるヤラ川で二、三十人乗りの観光船に乗ってみた。夕暮れ時になり、町のビルに灯りがともり始める。川沿いの路上では街頭芸人が大声で客の注意を引きながら芸を披露している。通りに沿って数十メートルおきに設置されている高い柱の上の煙突から十秒程の間隔で炎が燃え上がった。これがまた美しい。船長さんの親切な解説を聞きながら、船は往路を引き返して約三十分の観光が終わった。メルボルンは観光客が多く、鉄道の駅のいろいろな案内が日本語を含めて数カ国語で書いてあるところが目に付いた。東アジア、東南アジアの経済恐慌はまだオーストラリアには影響を与えていないということだった。
 日曜日の朝、七時半頃ホテルを出て近くのカトリック教会を探し当て、ミサに預かることができた。聖フランシス教会という、立派な歴史のありそうな聖堂である。入り口近くに一五〇周年記念事業として改築を目指して募金をしている、という看板が立っていた。聖堂は十字形で正面に大きな祭壇があるほか、左右に小聖堂があった。ステンドグラスに描かれた十字架の道行きの絵が美しかった。
 アメリカ的な広大さと自由さにイギリスの伝統が調和した興味深い国、これがオーストラリアについての私の印象である。私たちの目はややもするとアメリカや西ヨーロッパばかりに向いてしまうが、もっとオーストラリアとも交流を持ちたいものだと思った。